福岡高等裁判所 昭和54年(う)229号 判決 1979年9月11日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は弁護人有富宇一朗提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
第一法令適用の誤りないし事実誤認の論旨について
所論は要するに、原判決は原判示第一の事実につき本件木刀を暴力行為等処罰に関する法律にいう兇器にあたると判断した。しかしながら、同法にいう兇器とは、一般人がこれを見て直ちに生命、身体等に対する危険を感ずるような物をいうと解すべきところ、その判断に当っては物自体の形態、性質とともにそれを利用した者の主観及び具体的状況を総合して判断しなければならない。本件木刀は運動用として多くの家庭に常置され、あるいは玩具店等に陳列されているもので、これを見て直ちに危険を感ずるようなものではない。被告人は事務所の部屋に常置していた右木刀を偶々手に取って被害者を脅迫したに過ぎず、それ以上の加害の意図はなく、しかも被告人の単独犯行である。原判決は本件木刀の形態、性質並びに被告人の主観的意図及び本件の具体的状況を度外視した結果、事実を誤認し、ひいて法令の解釈適用を誤ったものである、というのである。
ところで、暴力行為等処罰に関する法律一条にいう兇器とは、銃砲、刀剣類のように本来の性質上人を殺傷するに十分な物のほか、鎌や棍棒等のように用法によっては人の生命、身体または財産に害を加えるに足りる器物で、社会通念上人をして危険感を抱かせるに足るものをいうと解すべきであり、右の用法上の兇器については具体的な事案において客観的及び当観的要素を勘案して判断するのが相当である。原判示関係証拠によれば、本件木刀は樫の木で作られ長さも八四センチメートルあって人を殴るのに手頃なもので、かねて被告人が暴力団T会K組M事務所四畳半の間のタンスの抽出に入れておいたものであること、被告人は原判示日時ころ被害者を右事務所に連行したうえ、同所四畳半の間において、組に入ることを断った被害者に対し右木刀を突きつけ「この木刀で五〇回殴られて久留米から出て行くか、組に入るか、どっちか決めろ」などと怒号し、同人の生命、身体に危害を加えかねない威勢を示して脅迫したことが認められ、右事実によれば、本件木刀は性質上の兇器ではないが、用法によっては人の生命、身体または財産に害を加えるに足りる器物であり、しかも暴力団員である被告人がこれを被害者に突きつけその身体を殴打しかねない気勢を示して脅迫したときは、社会通念上人をして危険感を抱かせるに足りるものというべく、暴力行為等処罰に関する法律一条の兇器に該当することは明らかである。したがって、本件木刀が同法一条の兇器にあたると認定した原判決に所論のような違法はなく、論旨は理由がない。
第二量刑不当の論旨について
所論に鑑みて記録を精査し当審における被告人質問の結果をも参酌して検討するに、本件は暴力団T会K組の若頭補佐である被告人が浮羽郡××町に新たにO組を作るためその組員となる若者を探していたところ、輩下の組員Aから被害者が組の手伝いをする旨きいて原判示第一記載の日時頃同人と話し合ったが、事務所開きの日だけ手伝うつもりでいた同人から話が違うといって断られるや、同人を前記事務所に連れ込み、同人に対し木刀を突きつけて原判示のような脅迫を加え、さらに、その際代りに組員となる者を見つけろといわれ仕方なくこれを承諾した被害者が後日電話でこれを断ってきたことなどに立腹し、原判示第二記載の日時ころ、同人の勤務先のキャバレーに他の組員と共に押しかけ、同人の腹部を膝蹴りし、手けんでその顔面を殴打したという事案であり、粗暴で自己本位な被告人の犯罪傾向は無視できないものがある。そのうえ、被告人が銃砲刀剣類所持等取締法違反、暴行、恐喝等の前科四犯を有していること、昭和四二年から右K組の組員であること、その生活歴等の諸事情に照らすと、所論指摘の本件犯行の動機、態様、本件が酔余の犯行であること、被害者との間に和解が成立しその宥恕を得ていること、現在反省していること等被告人に有利な事情を十分斟酌しても被告人を懲役七月の実刑に処した原判決の量刑は相当であってこれが重きに失し不当であるとは考えられない。論旨は理由がない。
よって、刑事訴訟法三九六条に則り本件控訴を棄却することとして主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安仁屋賢精 裁判官 徳松巖 川本隆)